元マニラ住人の青年のブログ

頭良くないし機転も利かない。でも夢の大きさは誰にも負けない。

「混乱」がきっかけで、表現の自由は制限される

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※この記事はアゴラに投稿した記事に加筆修正をしたものです。


YouTubeに投稿された、ムハンマドを侮辱した映像作品「Innocence of Muslims」をきっかけに、アラブ地域では「アラブの春」以来の騒乱が起こっています。アメリカ大使を始めとして多くの死者が発生し、アメリカ・ドイツは大使館員を現地から避難させる事態にまで発展しています。アラブ地域の各国政府は騒乱を認めない考えを示し、事態の沈静化に向けて動いています。

そんな中、映像を国民が見ないようにし、これ以上騒乱の規模が拡大しないようにと、映像の検閲に乗り出した政府があります。エジプト、リビア、インド、インドネシアパキスタンバーレーンです。これらの国々は既にYouTubeへのアクセスが遮断されていますが、ロシアも同様のことを行う方針であると同国情報大臣は述べています。サウジアラビアも、YouTubeの親会社であるGoogleに同様の依頼をしています。

上に挙げた4ヶ国の中でも、私は特にロシアに注目しています。なぜなら、2009年現在でロシアの国民全体に占めるムスリムの割合は0.01%(16480)で、彼らは完全なマイノリティです。これまでチェチェングルジアなど、周辺国に対して人権侵害を繰り返し、マイノリティを追いやってきたロシア政府が0.01%ムスリムのためにYouTubeの遮断までするのはどうも怪しいのです。本当は何か他の目的があるのではないか?そう、外部からの情報の遮断です。なぜなら、少数勢力の影響力を過小評価してきたロシア政府がここまで大袈裟なことをするのは「マイノリティの騒乱防止」を建前として、単にネット検閲をしたいからに他ならないからです。

他の国々の動向も気になるところです。特にサウジアラビアバーレーンは「アラブの春」を機に、王政への批判が高まったこともあり、政府は民衆の団結を非常に恐れています。ですから、今回のように混乱防止を理由に、インターネットを検閲することは彼らにとっても好都合であるし、理にかなっていることなのです。民衆を守るため、と言えば政府を憎むことはできなくなりますから、批判の矛先は欧米諸国に向くのです。

政府にはもちろん騒乱の拡大を防止する狙いもあるのでしょうが、外部からの情報によって再び国民が反政府感情を抱かないように予防することも目的のうちにあるのでしょう。もちろん、他のアラブ諸国も一度は何らかの形で「アラブの春」で国民の反発を経験していますから、インターネットの恐ろしさは重々承知しています。ですから、閉鎖は体制批判が広がらないための有効な手段に成りうるのです。

今のままでいれば騒乱が拡大し、政府が国民の保護を理由に様々な規制を導入し、落ち着いた頃には再び政府が強権的になって国民を抑圧している、ということも有りうるのです。こうしたケースは実はアラブだけではありません。日本も同じです。201011月に海上保安官だった一色正春氏が「sengoku38」というユーザー名で、尖閣諸島沖で中国漁船と海上保安庁の巡視船が衝突した様子を撮影した動画をYouTubeに投稿しました。これをきっかけに国内外では多くの議論を呼んだわけですが、この事件を機に審議が始まったのが「秘密保全法」です。

秘密保全法は、国家が機密事項と認めた情報に関しては、外に出さないように政府が命令をできることを定めた法律で、表現の自由を侵害する恐れがあるとされています。(日弁連がWebサイト上で分かりやすく秘密保全法について解説しています当初はこうした動画のような日本が世界に知られたくない情報を外に出さないために審議が進んでいた法律ですが、これが情報の検閲を正当化する根拠になるとして議論を読んでいるのです。先日にはアメリカで民主党前原誠司氏が秘密保全法の早期成立を目指すと発言し、今後秘密保全法に関する審議にますます拍車が掛かりそうな勢いです。これもエジプトやリビアでのYouTube遮断と同様に、危機に乗じて表現の自由を制限しようと国家が動いたパターンです。

秘密保全法は審議の段階で施行はされていませんが、記者クラブ制や政府・大使館からの圧力などのためにメディアは常に情報を選ばなければなりません。憲法の条文上は表現の自由が保障されていますが、実際にはそうではないのです。そこに関しては上杉隆さんの記事・著作を読めばよくわかるのでここでは割愛します。

検閲・情報操作といえば強権的な国家で行われることと勘違いされがちですが、日本やアメリカのような民主主義国家でも十分起こりうる、いや実際に現在起こっていることなのです。表現の自由が保障されているのは実際には建前で、あたかも「保障されているかのように見える」だけなのです。外面は自由だけれども内部は違う。この構造はある意味で中国のような「検閲を前提にした表現」よりも恐いものがあります。検閲されているとわかっていながら見る情報よりも、自由だと信じて接する情報の方が信じ込みやすいからです。日本の場合は後者に属します。そして日本人はフィルターを通された情報を正しいと信じて受け入れてしまっている。ここに問題の本質はあるのです。それを肝に銘じて、我々は情報と向かい合っていく必要があります。

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<<参照資料>>
社会実情データ図録 - “世界のイスラム人口(2009年推計)
世界経済のネタ帳 - “ロシアの人口雇用失業率の推移