TIME before 55

頭良くないし機転も利かない。でも夢の大きさは誰にも負けない。

最新シリア情勢 (7/18~21) 爆弾テロ、化学兵器、制裁、難民、権力闘争 etc. #syrjp #syria

القذيفة التي سقطت عند مشفى اليمان والتي ادت الى اصابة عدد من الاهالي الله اكبر على كل من طغى وتجبر
ここ数日で、内戦が続くシリアの情勢が加速してきました。国連によると、過去2日間で470人が死亡したとされ、今後さらなる犠牲も予想され、事態は混迷を深めています。内戦勃発以来、1万7000人の市民が犠牲になり、政府によると4000人の治安要員が死亡しています。そこでシリア情勢をここで今一度、わかりやすく整理しておこうと思います。主に7月18日から21日までの流れと内戦後のシリアの分析しようと思います。
※この記事は7月21日に書かれています。「過去~」という場合には21日から遡って換算して下さい。

7月18日、首都ダマスカス(Damascus)で爆弾テロが起こりました。犯行は自由シリア軍によるものかテロリストによるものとされており、双方が犯行声明を出しています。これにより、アサド大統領の義理の兄であるシャウカト国防次官、ラジハ国防相、ハッサン・トゥルクマニ元国防相、イフティヤール国家治安部長官の4人が死亡し、アサド政権にとっての大打撃になりました。この他にも同じ場所に多くの軍や情報機関の重役がいたことから、これは偶発的なものではなく、計画的なものとして読み取ることができます。この時点で既に4日間の間ダマスカスでは戦闘が続いていました。

この日、ヨルダンのアブドラ国王はCNNのインタビューに答え、シリアは全面的な内戦のレベルにあり、政権が保有する核兵器アル・カーイダの手に渡ることを最も危惧するという旨の発言を行いました。兵器の不拡散の研究を行うジェームス・マーティンセンターの経営取締役のレオナルド・スペクター氏は、シリアは世界有数の化学兵器保有国であるとしています。例えば、毒ガス(マスタード・ガス)のようなものから、サリンのような神経剤、体から抜けなくなる可能性のあるVXガスのような神経剤をも保有しています。ちなみに、サリンVXガスオウム真理教が使用したことでも知られています。

それら化学兵器は、現在戦闘状態にあるハマやホムスに眠っているとされており、特殊部隊が守っていますが、政権が崩壊すれば彼らは持ち場を離れる可能性もあり、いつアル・カーイダの手に渡ってもおかしくないとされています。リビアカダフィ政権が崩壊した際に、化学兵器禁止条約に調印し解体途中にありましたが、シリアの場合これに調印していなく、情報機器でさえも詳細はわからない状態にあることから、不安が広がっています。これに対応するため、アメリカ国防総省はテロ組織へ化学兵器が渡るのを防ぐための軍の派遣計画を作成しました。これには7万5000人が必要とされています。また、オバマ大統領は調査のためにCIAを送り込んでいることを明らかにしており、化学兵器生物兵器の場所の特定を急いでいます。シリアの情報機関とコネのあるアメリカの職員によると、軍の離反者と協力し、シリアの大量破壊兵器についての情報を収集しているとのことです。また、電話の通話やメールを傍受したり、衛星写真を用いて、武器の居場所を調べています。イラクに逃れた元大使によると、シリアは化学兵器の使用をためらわないとしており、ただの外交カードとして使用するわけではないことが明らかになっています。しかし、もし実際に使用された場合の処遇については、オバマ大統領は明らかにしておらず、対応を模索している状態です。


19日、国連安保理では停戦要求が中国・ロシアの拒否権発動により廃案となりました。
国連安全保障理事会は19日午前(日本時間同日深夜)、アサド政権と反体制派の戦闘が激化するシリア情勢で会合を開き、同政権が10日以内に停戦に応じなければ、経済制裁など非軍事的措置を定めた国連憲章第7章41条に基づく措置を直ちに取ると明記した欧米理事国提出の決議案を採決に付した。常任理事国のロシアと中国が拒否権を発動し、同案は廃案となった。

これほど彼らが制裁に非協力的なのはなぜでしょうか?ひとつは、政権崩壊によってイスラム教過激派が政権を握り、ロシアの安全保障が脅かされることを恐れていることです(当局者談)。もちろん、輸送によってシリアから得られる資金は数十億ドルにも上り、それを欲しがっているという見方もできなくはないですが、それは主な理由ではないようです。もうひとつは、彼らが「枢軸」として協力関係にあるからです。中国・ロシア・北朝鮮ベネズエラキューバは強権国家として国民の権利を抑圧しながらお互いに軍事的・経済的に協力関係を築きあげ、欧米諸国からの圧力に対抗しています。自らの権力を守るために民主主義を制限し、温存を図っているのです。

20日に入ると、EUは制裁強化を決議、武器を搭載した船舶や航空機を各国当局に検査させることを義務付けました。これによりさらにシリアは孤立することになり、政府は弱体化されることになりました。自由シリア軍は北部・南部の国境地帯を制圧しており、攻勢を強めています。しかしその裏で、自由シリア軍は北部のイラクとの国境地帯、南部のトルコとの国境地帯を通過する避難民を攻撃したとされています。これは政権崩壊後の彼らの信用にもつながってくるため、住民にどのように評価されるかが今後の影響力拡大を図る上での試金石になりそうです。

話を元に戻しましょう。アラブ諸国は20日からはラマダーンに入るため、国民の宗教意識が高まり、これまで以上に事態が動くことが予想されています。しかし、ダマスカスはこの日にはいってから様子を一変させました。通りには数えられるほどしか人はいなく、ほとんどの商店は閉じられ、街は緊張感と恐怖に満ち溢れているといいます。労働者はおらず、多くの人は自宅で銃火を逃れているのです。数百人の人々は自宅を離れ、学校に避難しています。しかし、ヘリコプターの音や爆音に紛れて、反政府派がアサド大統領に抗議をする声が市の中心部で聞こえるといいます。地下に潜って人々を助けようとする組織は救済を続けていましたが、もはやできないとしています。この日、1日あたりの死者が最多となる310人が死亡しています。前日は302人でした。



そんな中、国外に逃げる人々も増えています。国連によると、過去48時間で3万人がレバノンへ避難したと発表していますが、活動家はもっと多いと主張しています。また、過去4日間の間に2500人がレバノンに到着し、3万5000人は既にいるともされています。内戦勃発以来逃げた人々も含めるとレバノンへの難民の数は14万人に上ります。そして4万人がトルコとの国境を超え、救済機関に登録されました。また、今までで8万8000人が登録、過去24時間で3000人がイラクへ避難しました。その中には「自由シリア軍に家を追い出されて逃れてきた」と証言する人々もいます。これを受け、イラクの大統領は国連に対して送還を求めています。また、カイムでは2000人以上のイラク軍兵士が動員され、流入を防いでいます。この国境地帯のシリア側では自由シリア軍が土地を制圧しています。

そして20日夕刻、大きなニュースが飛び込んできました。アレクサンドル・オルロフ駐仏大使によると、アサド大統領が事実上の退陣を認めたというのです。以下、Reutersからの引用。
同大使は「ジュネーブの会合で、より民主的なシステムへの移行を予測する最終コミュニケが作成され、アサド大統領はそれを受け入れた。アサド大統領は政権移譲をめぐる交渉を委ねる代表者を指名した。そのことは、彼が退陣を受け入れたことを意味する。しかし、それは秩序だった方法でのことだ」と述べた。
それに対し、シリア情報省は同日、「まったく真実性を欠くものだ」と否定する声明を発表した。

この日、国連監視団の30日の滞在延長が決まったばかりでした。これは「最後の延長」だとしており、監視団自身の生命の危険を恐れての措置だと言えます。爆弾テロや攻撃が相次ぐ中で、監視団が十分な役割を果たしてきたのか、実際の影響力がどれほどのものなのか、疑問は残りますが、ロシアにより軍事介入をできない中での苦肉の策といえるでしょう。

「アサド後」を見据えた動きも出ています。ムスリム同胞団が政党の結成を発表しました。政権崩壊後の政治がどう動くのかにも注目が集まります。まず、反体制派と自由シリア軍がどのようなポストに置かれるのか。選挙は反体制派が行うのかもしれませんが、その後、軍部である自由シリア軍の処遇はどうなるのか。彼らはずっと政府軍と戦ってきたわけですから、政治への一定の影響力を要求するでしょう。しかしそれがあまりにも大きいものになれば、軍が政治を握ることになり、エジプトのように政治が混乱することも考えられます。

そして、ここで「国民評議会」ではなく「反体制派」と表現したのには理由があります。シリア国内の反体制派は国民評議会(Syrian National Council)だけではないのです。実際、欧米諸国と最も親密な関係にあるのは国民評議会ですが、必ずしもシリアを代表しているとはいえません。選挙をしているわけでもなく、ただ発言力があるだけなのです。彼らは外国に対して介入を求め、欧米の報道機関に対しても多くの情報を提供していますが、彼らのバックグラウンドを踏まえると、それは客観的であるのか、など疑問は絶えません。国民評議会の意見が「シリア人の意見」としてメディアで使われることも多くあるため、誤解が生じる可能性もあります。

このように、化学兵器の実態や周辺国への難民、権力闘争など政権崩壊が実現しても、シリア国内の問題は山積みです。仮にロシア・中国が欧米諸国に歩み寄りを見せてシリアへ抗議をし、軍事介入を行ったとしても、混乱した情勢はすぐには収拾されないでしょう。この混乱をいかに早く収束させるかで、シリアの政治は大きく左右されてきます。各国は目先の対策ではなく、長い目でシリア情勢を予測し、アラブ情勢の安定に向けて尽力していくべきでしょう。

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